大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和51年(ソ)22号 決定

抗告人 株式会社みながわ製菓

右代表者代表取締役 皆川進

右代理人弁護士 大西昭一郎

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  抗告人は、本件抗告の趣旨として、「原決定を取消す。原裁判所は原決定添付目録記載の証書につき公示催告をせよ。」との裁判を求め、その理由の要旨は「原決定添付目録記載の妙高観光開発株式会社の発行する妙高カントリークラブ預り金証書二通(以下「本件証書」という)は、預託金返還請求権を表象するものであり、裏書によって譲渡されることとなっているのであるから、指図証券として公示催告の対象となりうるものであるのにかかわらず、原決定が右解釈を誤り、これに該当しないとして本件公示催告の申立を却下したのは失当である。」というにある。

二  よって判断するに、除権判決のための公示催告の対象となる証券は、手形、小切手(民事訴訟法第七七七条第一項)、株券(商法第二三〇条)、指図証券、無記名証券、記名式所持人払証券(民法施行法第五七条)、抵当証券(抵当証券法第四〇条)であるところ、本件記録によれば、本件証書は、妙高観光開発株式会社が抗告人に対して発行した妙高カントリークラブ入会保証金預り証書であること、その表面に「妙高カントリークラブ預り金証書 金〔金額欄〕右記の金額を妙高観光開発株式会社の預り金として正に御預り致しました。但しお預り金は十ヶ年間を据置とし、利子又は配当金等はつけません。本証書は譲渡可能ですが名儀書替には別に定めた手数料をお支払い願います。妙高観光開発株式会社代表取締役上原一郎」との不動文字の記載があり、裏面には、裏書又は登録年月日欄、裏書人記名調印又は取得者記名欄、取締役証印欄が存すること、本件証書は預り金額はいずれも金二五万円であるが、そのうち一通は名宛人の記載のあるものであり他の一通はその記載のないものであることが認められる。

右事実によれば、本件証書は、その外観上は、裏書譲渡の可能な金二五万円の預り金返還請求権を表示しているものであるけれども、前認定によると、本件証書はいわゆる預託会員制のゴルフ会員証書と解され、一般にこのようなゴルフ会員証書は、預り金返還請求権と当該ゴルフクラブの会員資格とが一体となって表示されているものであるが、入会にあたっては、右クラブ会員として不適当な者が右クラブ会員となることを防止するため、会員の紹介又はクラブ理事会の承認を必要とし、その上で会員証書が発行されるものであり、その権利の譲渡にあたっても、単に会員証書の裏書交付のみではゴルフ場の経営主体である受託会社に対して対抗することができず、理事会の承認を必要とし、又右権利者は、クラブ備付の名簿に登録され、右証書の所持がなくとも所定のクラブでプレーできるとされているところ、本件証書が特に右のような会員証書とその性質を異にするものであることを証するに足りる資料はなく、この点と前認定のような本件証書の記載、とりわけ記名式のものでは特定人又はその指図人を権利者とする旨の指図文句の記載が、又無記名式のものではその所持人を権利者とする旨の記載がいずれも存しないこと及び裏面の形式が手形等の形式とは異なっていることなどをあわせ考えると、本件証書は、その無記名式のものも、本来的にはクラブの会員としての資格及び預託金返還請求権とが証書と一体となって転々流通することを予定しているもの、又はその権利の行使に右証書の所持が絶対的に必要とされるものとは解し難く、せいぜい、右証書は所持人が妙高カントリークラブの会員であり、預り金返還請求権者であることを証する証拠証券あるいは単なる指名債権証書と解されるにすぎない。ゴルフ会員証書が投資の対象とされ、取引業者を介して取引されていることは公知の事実であるが、右の事実から、直ちにゴルフ会員証書が前示の本来的性質から脱却して有価証券化したとの商慣習法が成立したものと認めるに足りない。よって、本件証書が前記公示催告の対象となりうる証券のいずれにも該当するものではない。

三  したがって、本件証書が公示催告の対象となる証券ではないとして抗告人の本件公示催告の申立を却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 渡辺雅文 北村史雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例